代替肉、偽肉、クリーンミート、培養肉、植物肉、人工肉…など、様々な呼び名のあるフェイクミートが存在感を増してきています。ダイエットしたい人や、牛や豚などの動物を食べたくない人など、たくさんの需要のあるフェイクミートですが、実は注意してほしいことも。
フェイクミートのメリットとデメリットを簡単に解説します。
フェイクミートってなに?
そもそもフェイクミートって何でしょう。フェイクミートとは大きく分けて2種類あります。
培養肉と植物肉です。
培養肉とは、赤い培養液の中で動物から採取した幹細胞を培養することによって肉を作り出します。
植物肉とは、大豆や小麦、エンドウ豆などの植物由来のたんぱく質を使い、従来の肉に似た味や食感などがある代替肉のことで、培養肉よりも一足先に普及が進んでいいます。
フェイクミートのメリット
フェイクミートは環境負荷が低い
フェイクミートの前に従来の肉にはどれだけ環境負荷がかかっているのかを見ていきましょう。
このグラフはたんぱく性食品1kgが作られるまでに排出される二酸化炭素の量をグラフ化したものです。
分かりやすくハンバーガーを例にとって考えてみましょう。牛肉のパテを1枚、約57gとしましょう。牛肉57gを作るために排出される二酸化炭素の量は、27.1÷1000×57=1.5447、約1545gです。これは人間が1日に排出する二酸化炭素の量の約1.9倍です(人間は1日に約822gの二酸化炭素を排出します)。
牛肉を作るのにかかる環境負荷は二酸化炭素だけではありません。
NPRの資料を基に牛肉約57g(約1/8 quarter-poundとして計算)を生産するのに必要な環境負荷を計算してみました。約380gの穀物や草、約25Lの水、約0.87m2(約93cm四方)の土地、約32.7kcal(約38wh)のエネルギーが必要になります。
一方で植物肉の代表的な原材料である大豆の環境負荷はどの程度なのでしょうか。
大豆57gを作るのに必要な環境負荷を計算してみました。上の資料によると、二酸化炭素排出量は約18.2g(人間の1日の二酸化炭素排出量の2.2%)、水は3.1Lが必要になります。また、0.375m2の土地が必要です(農林水産省による令和元年の大豆の生産実績より年間152kg/10a生産されているものとして計算しました)。
これらのデータをまとめてみます。
牛肉 | 大豆 | 牛肉/大豆 | |
作る重さ | 57g | 57g | 1 |
二酸化炭素排出量 | 1545g | 18.2g | 84.89 |
穀物や草 | 380g | – | – |
水 | 25L | 3.1L | 8.06 |
土地 | 0.87㎡ | 0.375㎡ | 2.32 |
エネルギー | 32.7kcal | – | – |
同じ重さの牛肉と大豆を作るのにこれだけの環境負荷の違いがあることが分かりました。
このように、同じ重さを生産するのにかかる環境負荷は、牛肉は大豆のそれぞれ二酸化炭素排出量が約85倍、水が約8倍、土地が約2.3倍必要なことが分かりました。大豆を原材料にした植物肉は加工が必要なので、工場設備の光熱費などここに記載されていること以外の環境負荷もかかりますが、結論としては「植物肉の方が従来の肉よりも環境負荷は低い」と言うことはできそうです。
一方の培養肉は、まだまだ生産が開発段階であるものの、「培養肉の生産が軌道に乗れば、畜産の1割以下のリソースで同じ量の肉や革などが生産できると言われている」(東洋経済ONLINE 2020年4月22日の記事より)ことからも、植物肉同様に培養肉も牛肉よりも環境負荷が低いことは間違いなさそうです。
世界的な食糧不足が解消!?
2020年の世界の人口は77億9500万人で前年より8000万人増えていて、2050年には100億人に達するとも言われています。
そこで現在、心配されているのが「食糧危機」です。人類100億人の“爆食”に備えた各大企業は莫大な資金力で発展途上国の森林を買い漁って田畑や畜産用牧場に変えています。また、食料不足に苦しむ人々は田畑を増やそうと焼き畑農業を進めています。こうして、さらなる自然破壊が起きているのです。南アメリカのアマゾンはかつてない速さで焼き払われ、田畑にその姿を変えています。世界で失われている森林の面積は年間で、日本の面積の約14%にあたる(九州と四国の面積の合計が国土の約18%です)と言われています。
フェイクミートの登場で食糧危機に対応しようとしています。先に挙げたように、同じ量を生産するなら牛肉の半分以下の土地しか必要としない大豆原材料の植物肉なら、牛肉に代わって倍量を生産することで、食をより多くの人々の所に届けることが可能です。さらに培養肉なら、そもそも畑を必要としないので消費者に近い都市部に生産センターを作ることも可能で、輸送にかかる環境負荷を軽減することもできます。
このように環境負荷のかかる食肉から脱し、フェイクミートに移行することで、環境負荷を減らして地球環境に貢献することに加え、現在、そしてこれから私たちが直面する食糧危機に対応することも可能なのです。
フェイクミートによる価格破壊
国内のインテグリカルチャーによると、2017年には肉1kg3000万円(ハンバーガーパテ約57gが171万円)かかっていたのが、2025年には肉1kg300円(57gが17.1円)まで下がるだろうと予想しています。海外ではイスラエルのフューチャー・ミート社が2022年までに1ポンド(454g)が1070円(57gが約134円)で販売できるだろうと発表しています。
従来の牛ひき肉は、57gで約114円から約228円(2021年2月現在Amazon調べ)ほどすることから考えると、まだ発展途上ではありますが、数年後にはこの価格の約90%オフで牛ひき肉が手に入ると思うとその価格破壊力はすさまじいものがあると言えそうです。
大豆ミートは生活習慣予防にも効果が
現在、スーパーなどで手に入りやすい植物肉は、主に大豆を原材料としたフェイクミートで、低カロリー、低脂質という健康効果があります。
大豆ミートの老舗メーカー不二製油によると、大豆は食物繊維、ミネラルなど栄養も豊富でコレステロールフリーです。牛肉よりも高たんぱくで、カロリーは牛肉の1/3、脂質は鶏肉の1/14、牛肉の1/33となっています。
さらに大豆製品には中性脂肪を下げる働きがあり、脂肪肝などを改善する効果があると言われています。
フェイクミートのデメリット
健康面では注意が必要なことも
植物肉の場合は、味を従来の肉製品に近づけるために、塩分が多く含まれるものもあるので注意が必要です。
「アメリカでは、フェイクミートのハンバーガーの塩分を調べたところ、牛肉で作ったパティの4~5倍もあった、という報道もありました。肉に近い味付けをする際に多くの塩分を使うということなのでしょう」
引用:身近に広がる「フェイクミート」、気になる健康への影響は? 2020年10月1日
また、大豆を原材料にしている植物肉の場合、カリウムが豊富に含まれているため、腎臓に疾患を抱えている人には特に注意が必要です。
「カリウムは体に必要な成分ですが、多すぎても少なすぎても健康に害を及ぼす可能性があります。そのため、不要なカリウムは尿で排出するなど体が調整しているのですが、腎臓の機能に問題があるとその調整がうまく働かず、カリウム過多の状態になって心臓に負担をかけることもあります。腎臓が悪い人や普段から食事指導を受けている人は、食べる前に必ず医師に相談するようにしてください」
引用:身近に広がる「フェイクミート」、気になる健康への影響は? 2020年10月1日
培養肉の場合は、通常の肉と違い、病気などに対する免疫が欠如しているため、不安が残るとする記事もあります(ニューヨーク・タイムズ紙)。
食肉業者の淘汰
植物肉や培養肉などのフェイクミートの登場によって、従来からの食肉業者が淘汰される可能性も十分にあります。アメリカでは「培養肉を排除し既得権益を守ろうとする食肉ロビー団体の抵抗が大きい」(NewSphere 2020年8月3日)と言われています。
もちろん、今すぐにというわけではありませんが、私たち消費者の選択次第です。
われわれ消費者の意識
そもそも培養肉に対する拒否感は根強くあります。動物を殺すことなく食肉を得られる培養肉は倫理的で、環境負荷も低く地球にも優しい持続可能なSDGsな食べ物であるけれども、遺伝子組み換え食品が出始めた頃にでた拒否感と同じように、われわれ消費者(特に日本人)は試験管や培養液など、科学的に作られた食品には抵抗感が強いです。
まとめ
植物肉・培養肉に代表されるフェイクミートはSDGsにかなった持続可能な食品の代表例でしょう。倫理的・環境負荷的な問題はクリアしています。これからは、価格や味といった最低限の課題から、消費者が抱える拒否感や健康的な問題点といったところまでクリアできるか、注目していく必要があります。
そして、これらの問題とどう向き合っていくのか、私たち自身が考えていかないければいけない問題です。
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